『科学技術をよく考える:クリティカルシンキング練習帳』
追加練習問題・ディスカッション課題
本書の課題文やスキルに対応する追加のディスカッション課題です。クリティカルシンキングの能力をより深めるために利用してください。
ユニットごとのディスカッションの視点については「ディスカッションの際の注目点、および事前の注意(参考例)」も参考にしてください。
ユニット1 遺伝子組換え作物
議論の特定の手法 追加課題
以下の議論の論証図を書いてみてください。
- (a) 脳の機能の研究は特別な装置の中で行われる。(b) 日常生活と特別な装置の中で脳の働き方が同じ保証はない。(c)ということは、脳の機能の研究の結果はあまり信頼できないということだ。
- (a) タバコを吸うとガンになるからタバコを吸ってはいけないという意見もある。(b)しかし雪山登山の方がよほど危険だがそれは禁止されていない。(c) だからタバコは吸ってもよい。
- (a)飯田橋先生は研究室にいる。だって(b)部屋の明かりがついているもの。(c)先生は部屋を出るときは必ず明かりを消すからね。(d)たしかに音楽は聞こえてこないけど、(e)それは先生が寝ているからじゃないかな。
- (a) 犯人はサトシかタロウだ。しかし(b) サトシが犯人だとは考えにくい。というのも、(c) サトシには動機がないし、(d) サトシの性格からいっても殺人をおかしそうにないからだ。(e) タロウにはアリバイがあるが(f)ノブオが共犯だと考えればアリバイは崩れる。だから(g) タロウが犯人じゃないだろうか。
- (a)小テストの復習なんてしなくていいよ。だって、(b)期末試験には小テストで出なかった問題が出るはずだし、(c)期末試験に出ないことの復習はしなくていいでしょう?どうしてそんなことが分かるかって?だって(d)小テストの問題は難しかったけど(e)期末試験は難しくしないって先生が言っていたからね。
- 36-37ページにかけての以下の箇所の論証図を書いてみてください。(1)~(7)のすべてが論証図にあらわれるとは限りません。また、論証図を書く上で必要な要素が文中にない場合は、その要素を(a), (b), (c)などと記号で表して組み込み、それぞれの内容を別途記してください。
(1) 脳トレにはさまざまな批判があるのは確かである。(2)しかし、そういう批判は的を射たものになっているだろうか。具体的に見ていこう。(3)代表的な批判としては自然科学的な根拠を疑うものがある。(4)たとえば、信原・原・山本編(2010)の第14章は「脳トレ」批判にあてられており、「脳トレ」商品の広告に見られる科学的情報が真に科学的情報として信頼に足るかどうかを検討している。(中略)
(5)このような疑いの眼差しに対して、川島は2007年に『Nature Neuroscience』上で「脳トレ」に科学的根拠がないと批判をうけたケースに言及して、以下のように疑問を呈している。
(中略)
(6)川島の言うとおり、「脳トレ」商品は科学的な研究の成果物ではあっても、研究報告そのものではない。(7)信原らが指摘しているのは、商業広告の戦略において自然科学的な言説を取り扱う際の倫理的問題に過ぎず、「脳トレ」が脳神経科学の応用例として社会に利益をもたらすか否かまでの問題に切り込んではいない。
予防原則 追加課題
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ユニット2 脳科学の実用化
三段論法 追加課題
以下の三段論法の妥当性も同様に判定してみてください。(判定するのは、三段論法として妥当かどうか、ということですので注意してください)
あるコーギーはほ乳類である。
すべてのコーギーは犬である
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ゆえに、ある犬はほ乳類である。
すべてのミーアキャットは猫である。
すべての猫はほ乳類である)
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ゆえに、すべてのミーアキャットはほ乳類である。
今日は火曜日であるか、または今日は水曜日である。
今日は水曜日である
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ゆえに、今日は火曜日ではない
ユニット3 喫煙を認めるか否か
隠された前提 追加課題
以下の推論における暗黙の前提は何か考え、またその前提はもっともらしいかどうか考えてみてください。(答えは一つとは限りません)
- 「遺伝子組み換えはまだ新しい技術で、これから何があるか分からない。だから普及には慎重になるべきだ」
- 「脳トレで遊んだ認知症患者Aさんの症状が緩和した。したがって脳トレは認知症患者全般に対して症状改善の効果がある」
自由主義 追加課題
- 愚行権も否定するようなハードパターナリズムの立場からは喫煙について何がいえるか、そしてそういう立場に対して自由主義者はなんといって反論できるかを考えてみてください。
ユニット4 乳がん検診
対立点の整理 追加課題
- 98-99ページを読んで、ユニット5「血液型性格判断」のチアキさんとユウさんの議論にあてはめてみよう。二人の対立点はなんだろうか、その対立点は98ページの(1)から(4)のうちどれにあたるだろうか。(1)〜(4)にあてはまるものがないか探す形で考えてみてほしい。
(1) 言葉遣いの違いによる対立
(2) 事実についての対立
(3) 価値や規範についての対立
(4) 問題の見方についての対立
ユニット5 血液型性格判断
定義の明確化 追加課題
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「血液型で性格は判断できるか」という問題について考えるとき、「性格」という言葉はどんなふうに定義するべきだろうか。それはここで紹介されているいろいろな種類の定義のうちどれにあたるだろうか。
ユニット7 宇宙科学・探査への公的な投資
問題のフレーミングを疑う 追加課題
- スキル4−1では「問題の見方」として一括して説明したが、フレーミング前提の中にも事実っぽいものも規範っぽいものもある。そのあたりに注意しながらチアキさんとユウさんのフレーミング前提のうち対立するものを書き出してみよう。179-180ページのまとめにそって
(1)何が重要な社会的価値なのかについての前提
(2)誰にどういう責任があるかについての前提
(3)情報の信頼性・重要性についての前提
(4)科学のとらえ方についての前提
のどれにあたるかを考えてほしい。
ユニット8 地震の予知
追加ディスカッション課題
- 2009年4月6日、イタリア中部の都市ラクイラを大地震が襲い、死者309人、被災者六万人以上の大きな被害を出した。この大地震の前には数百回の弱い群発地震が観測されていたが、地震の危険度を国立研究所の科学者たちが中心になって検討し、それをうけて3月末に国家市民保護局の役人たちが安全宣言を出したため、多くの市民は十分な備えをせずに被害が拡大してしまった。そのため、安全宣言に関わった科学者・役人たち7名は不正確な情報を提供したとして過失致死罪で起訴され、2012年に全員に懲役6年の実刑判決が出された。
こうした地震予測情報提供の失敗によって、科学者が責任を問われ実刑判決が出されることをどう考えるだろうか?
危険を予期できなかったことに責任はないと考えるのであれば、たとえば、薬害エイズ事件のように、健康被害を予期できなかったことで、医師や製薬会社が裁判で有罪になったこととどう違うのだろうか。
一方で、予測や予測情報提供の失敗には責任が伴うと考えるのであれば、日本では不正確な宏観異常予知がさまざまな形で発信され失敗を重ねているが、それらに責任が問われないことは、どう考えるべきだろうか。また、多くの研究予算が投入されながら、日本の地震学者は誰も東日本大震災を予知できなかったことについては、どう考えるべきだろうか。
四分割表と錯誤相関 追加課題
- 「なんか最近疲れやすいなあ」と思っている人がいる。この実感(以前の自分よりも最近の自分方が疲労しやすい体になっている)が本当かどうかを四分割表のやりかたで確かめるにはどういうデータが必要だろうか。どういう錯誤相関の可能性があるだろうか。
ユニット9 動物実験の是非
二重基準と普遍化可能性テスト 追加課題
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244ページの(1)についての追加の注意。「カツ丼だと思っていなかった」「カツ丼に豚肉が使われていると思っていなかった。」「カツ丼は食べてはいけないと判断しているが、意志が弱いからつい食べてしまっていた。」などの可能性は除外してください。その上で、アスカさんに「なんで動物実験に反対するのにカツ丼食べているの?」と質問したときに
(a) アスカさんがしそうな答え
(b) その答えで普遍化可能性テストをパスするかどうか
をセットでいくつか考えてみてください。
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普遍化可能性テストは「AはBだからC」という形の主張を見たら「同じBという条件のあてはまるDについてもCといえるだろうか」と考えてみることで、その判断が二重基準になっていないか確かめる方法です。見るからにCといえなさそうなDを選ぶのがコツです。さて、以下の主張について、Dにあてはまるものとしてどういうものを入れればテストとして有効か、それぞれ考えてみてください。
- 「遺伝子組み換え作物にはまだ分からないリスクがあるから規制するべきだ」
- 「みんながやっているから違法ダウンロードをしてもいい」
- 「血液型性格判断は就職差別などに悪用されることがありうるので全面的に禁止するべきだ」
- 「宇宙開発は人材育成や若者の科学技術への関心を高めるという効果があるので、どんどん国費で推進するべきである」
ユニット10 原爆投下の是非を論じることの正当性
実践的三段論法 追加課題
以下の主張を実践的三段論法の形になるように整理してみてください。
- 「動物は苦しみを感じる。だから動物を苦しめるようなことをしてはいけない。」
- 「被爆体験をしてもいないものが原爆投下の是非について論じるなど不遜だ。したがってわれわれが原爆投下の是非について論じるべきではない。」
- 「地震の直前予知はもし可能なら大きな利益をもたらす。だから直前予知の研究に予算を使うことは許される。」
メタCT 追加課題
- 277ページの演習課題が分かりにくい場合、以下のように考えてみてください。274ページからの解説ではクリティカルシンキングをしない方がいい場合のいくつかの類型が挙げてありますが、チアキさんの議論で論敵として想定している「原爆投下について論じない方がよい理由」や、アスカさんの議論の論拠はその類型のどれかにあてはまるでしょうか。それともどれとも違う立場でしょうか。
コメント、質問等は伊勢田哲治 (iseda213_at_gmail.com)まで (_at_を@に置き換えてください).
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